【本】『成瀬は天下を取りにいく』非青春的な青春小説爆誕!

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小難しくも説教くさくもない。

駆け抜けるような読書体験ができて、読み終わったあとに「あー面白かった!」と言える。

そんなシンプルで幸福な読書体験をしたい方におすすめ。

今回ご紹介するのは、2024年本屋大賞受賞の『成瀬は天下をとりに行く』。

最高の主人公誕生です。

あらすじ

中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。さらにはM-1に挑み、実験のため坊主頭にし、二百歳まで生きると堂々宣言。今日も全力で我が道を突き進む成瀬から、誰もが目を離せない! 

引用:宮島美奈『成瀬は天下をとりに行く』特設サイト(新潮社)

主な登場人物

成瀬あかり

 滋賀県大津市生まれ。

勉強もスポーツもできる万能タイプだが、それを鼻にかけることもなくマイペースに生きる。

周囲の意見に左右されず、本能の赴くまま我が道を突き進むタイプ。

島崎みゆき

成瀬の幼馴染で同じアパートに住む同級生。

「成瀬あかり史」(成瀬の歴史)を見届けたいと思っている自称凡人。

成瀬につっこむことができる数少ない人物。

みどころ

成瀬のキャラクター

飄々、マイペース、万能、規格外、人格者、ほら吹き、ビッグマウス。

成瀬を表現する言葉はたくさん思い浮かびますが、どれも正確ではないように思います。

閉店が決まった西武に毎日通ったり、M-1に挑んだり、急に坊主にしたり、けん玉チャンピオンになったり、シャボン玉を極めてテレビ出演したり‥

とにかく自由。自分の本能に忠実なのが成瀬なのです。

しかも、成瀬はただ自分がやりたいことをやっているだけなのに、いつの間にか周囲の人も巻き込んでしまう不思議な魅力があります。

このように書くと元気一杯の陽キャ女子を想像しがちですが、本人は常に冷静沈着。

淡々とした様子で急に「お笑いの頂点を目指そうと思う」などと言うので、そのギャップがまた面白いのです。

読み終わったあとには、きっとあなたも成瀬の魅力にはまっているはずです。

軽快で引き込まれる文章

文章の面白さもこの作品の魅力です。

全6話で構成されていますが、どの話も展開が読めずどこに着地するか全く想像がつきません。

また、幼馴染である島崎とのやりとりはテンポが良く、ずっと見ていたくなります。

長い付き合いである島崎の成瀬へのつっこみは的確でなかなかの切れ味。

島崎とコンビを組んでM-1を目指す短編『膳所(ぜぜ)からきました』では、ミルクボーイの駒場さんからも「漫才のネタも結構面白い」(特設サイトより)と言わしめるほど。

伏線回収やどんでん返しはなくていい。文章の力でシンプルに面白い作品を読みたい方におすすめです。

このひと言!

「百十四歳で結婚」

引用:宮島美奈『成瀬は天下を取りにいく』

これは、「ゼゼカラ」という成瀬と島崎による漫才コンビのネタのひとつ。

成瀬の普段の言動を元にネタを作っているゼゼカラ。

そもそもネタの入りの「私は二百歳まで生きる予定なんですけど」から笑ってしまいます。

ふたりのネタをまるまる一本見てみたい、と思わせてくれるひと言です。

感想

この作品が面白いことなんて、初めて本屋で見た時からわかっていたんです。

昨年の春頃に表紙を見た瞬間から「これ絶対おもしろいやつだ」と直感しました。

しかし元来のあまのじゃくな性格が災いして「面白いのはわかっているから読まない」という謎のモードに突入。

そうこうしている間に世間での評価はどんどんと高まり、ついに本屋大賞を受賞。

このタイミングになってやっと私も観念して(でもどこかほっとして)、この話題作を手に取りました。

もう面白過ぎて一気読み。

いや、面白いのはわかっていたんですけどね。

特設サイトでは著名な方々がコメントを寄せていますが、特に共感できたのは東村アキコ先生。


甘酸っぱくもない、エモくもない、こんな女子中学生爆走物語を私は待ってました!!!

東村アキコさん

引用:宮島美奈『成瀬は天下を取りに行く』特設サイト(新潮社)

このコメントを読んだ瞬間に「そう!そうなんだよ!」と強く頷きました。

この物語は中学生〜高校生の成瀬が周囲を巻き込んでさまざまなことにチャレンジする‥と外組みだけ聞くと王道の青春小説に思えます。

しかし東村先生がおっしゃるように、青春小説とは本来不可分であるはずの「甘酸っぱさ」も「エモさ」もない。

ただひたすらわくわくが続いている感じ。

これってすごいことだと思うのです。

では、なぜこの作品は青春を描きながらも、甘酸っぱくもエモくもならないのか。

それは、成瀬が若さという特権を行使している訳ではないからだと思うのです。

仲間と喧嘩をしながら何かを成し遂げたり、運命の人に出会ってひとときの恋に落ちたり、越えられない大きな壁を前に涙したり‥そのような出来事は一切おこりません。

シャボン玉を極めたり、M-1にチャレンジしたり、二百歳まで生きるために努力したり‥誰だってやろうと思えば今すぐにでも始められることばかり。

きっと成瀬は何歳になっても、自分がやりたいと思ったことにチャレンジをし続けることでしょう。

ひるがえって、私たちの多くは「今からでは遅い」とか「そもそも意味がない」などの理由をつけて、チャレンジしてみたいことから目を背けているのが現状です。

そんな私たちに「やりたいならやったほうがいい」と成瀬はシンプルに言ってくれます。

そうです、私たちの行動原理はただシンプルに「やりたいからやる!」「楽しそうだからやる!」でよいはずなのです。

成瀬を見ていると「何を自分はごちゃごちゃと難しいことを考えていたんだ」という気持ちになって、心が軽くなります。

さらに成瀬のよいところは「固執しない」こと。

「〇〇をやる」と堂々と宣言しても、あっさり諦める場合があります。

それが面白いし新しい。(そのことで島崎とちょっとしたトラブルになりますが)

成瀬が言うには、大きなことを百個言って、ひとつでも叶えたら、「あの人すごい」になるという。だから日頃から口に出して種をまいておくことが重要なのだそうだ。

引用:宮島美奈『成瀬は天下を取りにいく』

「自分が決めたことは最後までやり抜く!」という根性論とは距離を置き、いざとなれば方向転換も厭わない。

そのような成瀬の軽やかさが多くの読者を魅了するのだと思います。

 


可能性に賭けなくていい。可能性を楽しむだけで人生はこんなにも豊かになるのか。

柚木麻子さん


なんだ、楽しい人生を送ることを諦めなければいいのか。成瀬、ありがとう。

佐久間宣行さん

引用:宮島美奈『成瀬は天下をとりに行く』特設サイト(新潮社)

やりたいことをやる、できなくても落ち込まない、人の意見を気にしない、人生を楽しむ、「人生を楽しむ」と気負わない。

あぁ、なんてかっこいいんだ成瀬。

最終的には「なるせ」という名前の響きすらかっこいいな、と思っている自分がいます。

私も手始めに、昔からやってみたかった「天気のよい日に庭に出てリクライニングチェアに座って1日ぼーっと過ごす」を実践してみようかな。

ではでは。

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