【漫画】『君と宇宙を歩くために』|生きづらさを抱えている人たちすべてに読んでもらいたい

漫画

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突然ですがみなさん、人生うまくいっていますか?

この質問に自信をもって「もちろんです!」と返答できる人は、今回ご紹介する作品は世に数多ある普通に面白い漫画のひとつかもしれません。

しかし、そうではなく「生きるのって大変だなぁ」と常々考えている人にとっては、人生の拠り所、あるいは命綱となるような作品になるかもしれません。

今回ご紹介するのは、まんが大賞2024大賞作品『君と宇宙をあるくために』。(著:泥野田犬彦)

それぞれ人生の生きづらさを抱えている、変わり者の転校生とヤンキーが、お互いに影響し合いながら成長していく青春物語です。

読む前にハンカチの用意、しておいたほうがよいです。

あらすじ

勉強もバイトも続かないヤンキー高校生の小林。ある日、小林のクラスに変わり者の宇野が転校してくる。

彼は立て続けに話しかけられると硬直してしまったり沢山のことを同時に行えなかったりと”普通”のことが苦手。

それでも様々な工夫をして頑張っている宇野に共鳴した小林は自分も変わろうと行動を起こす。

『君と宇宙を歩くために』1巻より

登場人物

宇野

高校2年生。小林の学校に転校してきた変わり者。

同時並行で複数の作業を行ったり、想定外の出来事に対応するのが苦手。

ひとり言を言ったり、文字がぎっしり書かれた謎のメモを常に持ち歩いている。

小林

勉強を諦めバイトも続かないヤンキー。

コミュニケーション能力は高めだが、意外と繊細な一面も。

宇野と交流するなかで自分でも気が付かなかった感情を知る。

美川

3年生で天文学部の部長。

何事もマイナスな方向に考えてしまいがち。

人と会話をするのが苦手で、余計なことを口にして後悔することが多い。

井上先生

定年を間近に迎えた初老の先生。温厚な性格で天文学部顧問。

見どころ① お互いを成長させる宇野と小林のコンビ

この作品の魅力は、宇野と小林という一見正反対とも言えるふたりのキャラクターです。

なんらかの発達障害を抱えているであろう宇野。

想定外のことが起きるとパニックになるので、日常生活の行動手順(「バスの乗り方」「クラスの子と過ごすとき」など)を書いた手帳を常に持ち歩いています。

そんな宇野のことを、最初はまわりと同じように「変わったやつ」と見ていた小林。

しかし、日々頑張っている宇野の姿を知り、彼のことを「かっこいい」と思うようになります。

一方で「こうでなければいけない」という思い込みが強い宇野に対して、小林は「そうじゃなくても良くない?」と宇野を新しい世界に連れ出してくれます。

正反対に見えて実は似ている部分もあるふたり。

今後どのようにお互いに影響しあって成長していくか楽しみです。

見どころ② 胸を打つ巧みな心理描写

登場人物の巧みな心理描写もこの作品の魅力のひとつです。

たとえば、大きな声や音が苦手な宇野。

パニック状態になると景色がゆがみ、急にホラー漫画のようなテイストの絵になります。

普段はスッキリとした絵柄が急に変わるので、その落差は強烈。

宇野が感じている心理的な恐怖を生々しく感じることができます。

また、ヤンキーである小林の内面が変化する過程も見事です。

バイト仲間に影でバカにされるたびにイラついていた小林。

しかし宇野と出会い、この感情は「怖くて恥ずかったんだ」と気が付きます。

そして「折れたくねえ」「宇野だってそれを乗り越えてきたんだろ」と思うようになり、目の前の問題から目を逸らさず、真正面から取り組むようになるのです。

このように、この作品は「変わり者」「ヤンキー」などと安易にカテゴライズされがちな若者たちが、内面で必死にもがいている姿を描いています。

その必死でもがいている姿をみることで、読者も「自分と同じだ」と思い、深く共感するのだと思います。

このひと言!

ダサくていいんだ それでそのあと良くなるなら

『君と宇宙を歩くために』1巻より

これは小林が幼馴染でヤンキー仲間の朔(さく)に対して言ったセリフです。

小林は今まで自分ができないのを隠すために、授業をサボり、バイトもすぐ辞めてしまう生活を続けていました。

しかし宇野と出会い、今までは傷つくのが怖くて現実的な問題からずっと逃げていたことに気がつきます。

自分のカッコ悪いところを認めて、それでも前に進む道を選んだ決意のひと言です。

感想

「響く人にはめちゃくちゃ響く」。

ひと言でプレゼンするならば、そんな作品です。

発達障害やコミュ症など、普通の漫画ではモブキャラになりそうな人物を中心に置き、その心理を丁寧に描写することで多くの人の共感を得ているのだと思います。

かくゆう私もその1人。

「なんかわかるな‥」という場面が随所に散りばめられており、ページをめくるごとに共感と感動で涙がボロボロ止まりませんでした。

私が最も共感を覚えたのはヤンキーの小林君。(私はヤンキーではありませんが)

小林君は物覚えが悪く、勉強を諦めバイトも長く続きません。

私も物覚えが悪く、加えて運動神経も悪い。さらに言えば芸術系もからっきしダメ。

学生時代はみんなと同じことをするのに人一倍の努力が必要でした。

思い出すのは中学校時代の定期テスト。友達と勉強時間の話になった時に「そんなに勉強してるの!?」とびっくりされた記憶があります。

常に成績上位の友達は、おそらく内心では『それなのにその成績?』と思っていたのでしょう。

私の成績は全体の真ん中ぐらいでしたので。

その時私は「あぁ自分は人より努力してやっと人並みになれるんだなぁ」と悟ったのです。

なので学校生活は、せめて勉強だけはみんなに置いていかれないよう力を集中。

部活は早々に諦める道を選択しました。

そして、同じくやる気のない人たちとツルんで「そもそも部活はそんなに気合いれてないから」という雰囲気を醸し出していました。

そう、勉強を諦めた小林くんと同じ態度です。

今思えば、一生懸命頑張っても結果が出なかった時に、傷つくのが怖かったのだなと思います。

作中では、宇野や小林が失敗しても前を向く姿勢が描かれています。

きっとその姿に自分を重ねたり、励まされたりする読者は多いと思います。

この作品がまんが大賞を受賞したのは、生きづらさに共感できる人が案外多いからなのかもしれません。

そう思うと「自分だけじゃなかったんだ」と少しほっとした気持ちになります。

他の読者の方たちが、この作品にどのような感想を持ったのかも気になりますね。

1巻の後半には天文学部に入部した宇野と小林。

美川というコミュ障の先輩も増えて、宇野を中心にますますややこしく混沌としてきました。

私が望むことはただひとつ。「登場人物みんな幸せになってほしい!」ということ。

今後の展開が楽しみです。

ではでは。

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