小説を読んだ後や映画を観た後「この気持ちをだれかに伝えたい」と思うことは多いと思います。
しかし、いざ話そうと思うとうまく言葉にできない。伝わらない。
ある意味それは当然なわけで、そもそも簡単に語れるような作品であるならば、映画を作る必然性はありません。
『きみの色』は、そんな作品のひとつ。
私のつたない文章力では、この作品の魅力は伝えきれない。
「まずは観てください」としか言いようのない作品だと思います。(とか言いながら、感想は書きますが)
映画『きみの色』は、人が「色」で見える不思議な能力を持つトツ子が、美しい色をもった少女・きみと少年・ルイとバンドを組んで文化祭の出場を目指す、という物語。
タイトルにもある通り、この映画は「色」が重要なテーマです。
実際の画面でも、カラフルな映像が次々と現れては消える眼福な映画です。
まるで映像の宝石箱。
「人って、きれいな色を眺めているだけで幸せな気分になれるのだな」としみじみ思います。
そして、今回感動したのは『しろねこ堂』。
トツ子が、きみとルイにお近づきになりたい一心で始めたバンド。
この『しろねこ堂』が最高なのです。
一般的なロックバンド(確かに「ロックバンド」ときみが言っていた気がします)のイメージとは少し違うのがこのバンドの特徴。
ギター・電子ピアノ・テルミン(オルガン)という構成。
ベースもドラムもいない。
曲はテクノ調。
怒りや反抗ではなく、内省的な歌詞。
どれもが典型的なロックバンドのイメージから逸脱しています。
そして極めつけは、永作きみ(CV:髙石あかり)のボーカル。
これがすばらしい。
神秘的で透明感のある歌声。
淡々と歌っているのに揺さぶられる、言葉にならない感情。
最高にロック。
かっこいいし、楽しい!
アニメでも実写でも、いわゆる「ロックバンド」を描く場合は「若者が衝動に突き動かされて爆音で鳴らす音楽」という描写をされがち。
もちろん間違ってないし、私はそんな音楽が大好き。
最近のアニメだと『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ガールズバンドクライ』がその系譜ですね。
『きみの色』についても、私は鑑賞しながら「聖歌をモチーフにしたパンクロックな曲を、普段はクールなきみが感情を爆発させて歌う」というパターンかな、などと勝手な想像をしていました。
しかし、この映画はそんな私の安易な発想をひらりとかわし、軽々と超えてきたのです。
若者たちが楽器を持ち寄って、言葉にできない気持ちを音に乗せて歌う。
トツ子たちがその音楽を「ロック」と呼んでくれたことに、私はとても嬉しい気持ちになりました。
私の中でロックは自由を象徴する音楽ですので。
一方、ストーリーはシンプルといえばシンプル。
「それぞれに悩みを抱える若者たちがバンドを組んで学園祭を目指す」というもの。
あえて一言で語るならば、そんな作品です。
しかし私が思うに、この映画はストーリーがメインではない気がします。
映像と音楽がストーリーを補完する役割ではなく、並列なものとして存在する。
映画でしか表現できない方法で、私たちにメッセージを送っていると思うのです。
そして「人が色にみえるトツ子。だけど自分の色はみえない」という設定。
それを「トツ子の自分探しの物語」と言うことも可能だとは思うのですが、そんな安易で言葉で片付けてはいけない気もします。
普段は言葉に縛られすぎている私たち。
そんな私たちに、言語分野よりもう一段階深い場所に潜って、言葉以外の感覚で物事を捉える機会を、この作品は与えてくれているのではないでしょうか。
だから、この映画を観た後の感想は「うまく言えないけどなんか良かった」「色の使い方がきれいだった」「バンド演奏している時のトツ子がノリノリで可愛かった」でも良いのだと思います。
実際には、その言葉以上に大きなものが心のなかには残っているはずなので。
ではでは!
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