ネットショッピングを利用する頻度を少し控えようかなーー
映画『ラストマイル』を見終わった今、そんなことを思う。
映画公開の時期から「どうやら『アンナチュラル』と『MIU404』の世界とつながっているらしい」という噂は耳にしていたので、ずっと気になっていた作品。映画館には行きそびれたけど、Amazonプライムビデオで配信開始となったことを知り早速視聴。実際に懐かしい顔ぶれが画面に登場すると「やったー」と小躍り。テンションが上がる。綾野剛、やっぱりかっこいい。
しかし、そんなお祭り要素とは裏腹に内容はシリアスだ。巨大組織に組み込まれて、まるで機械の一部のように働かされる人々の姿が描かれている。グローバル化の成れの果てを見ているような気分になり、ひやりとする。
物語の舞台は世界規模のショッピングサイトの物流倉庫。そこから発送される商品に爆弾が仕掛けられていて日本中が大混乱に陥る。それを着任したばかりのセンター長・船渡エレナとチームマネジャー・梨本孔が事態の収拾にあたるーーというのが「ラストマイル」のざっくりとしたストーリーだ。
この映画を観て思ったのは「結局、外資系企業も日本とは違う意味でブラックじゃない?」ということ。
「外資系企業=自由で働きやすい」と思っていたが全然そんなことはなさそうだ。この作品で描かれているのは徹底した効率主義。常に作業効率がモニターに映し出され、少しでも滞ると警告画面。人間の行動が完全に機械に制御されている。商品をピックアップする従業員は立ち話どころか、トイレにだって自由に行けない雰囲気だ。人間の創造性など入り込む余地なんてない。
その分給料は良いのかもしれないし、きっとサービス残業もないのだろう。だけど、常に一定の成果を求められるプレッシャーは相当なものだと思う。人間なのだから「今日は体調が悪い」とか「急用で仕事に行けない」という日もあるはずだが、機械はそんなこと差し引いてくれない。
そもそも「一定の成果」どころか「成長し続けろ」と求められるのが私たちの生きる資本主義社会だ。本来、ある程度成長したら衰えるのが生き物の宿命。それなのに、社会だけが永遠に成長して生き永らえる。
まるで人間たちが命を削って「社会」という未知の怪物を育てているようにすら感じる。巨大物流倉庫のベルトコンベアーで運ばれ続ける段ボールは、その怪物への供物。なにがあっても止めてはいけないのだ。
私は別に資本主義を否定するつもりはない。このシステムのおかげで豊かで自由な生活を送ることができている。こうしてコーヒーを飲みながらMacBookでnoteの記事を書けるのもきっと資本主義のおかげだ。「もっと豊かに、もっと楽に」という人間の欲望には、そう簡単には抗えない。
だけど、一方で「永遠に成長し続けることなんて、果たして可能なのだろうか」と思っている自分もいる。成長すること自体は良いことだ。だけど、それと引き換えに失っているものもたくさんある。世界は常にトレードオフで成り立っているのだ。
事実、世界はどんどん極端になってきている。先進国では貧富の差が拡大し分断を招き、ここ数年の気候変動の影響は誰の目から見ても明らかだ。
日本に目を移しても、物価高の影響で苦しむ人がいる一方で上昇し続ける株価。人口は減少しているのに、大都市の不動産は値上がりが止まらない。それぞれ違ったやり方で、強い人は弱い人を叩き、弱い人は強い人を叩く。なにかがおかしい。
映画は面白かった。伏線回収のストーリーは見事だし、手に汗握るスリリングな場面もあった。最後は人としての意地や救いも描かれていた。綾野剛も最高だ。
だけど私が最終的に思ったのは「根本的には何も解決してないよな」ということ。羊急便の従業員の待遇が少しだけ改善したけれど、あとは何事もなかったかのようにベルトコンベアーは動き続ける。
人の欲望は否定できない。だけどこのままで良いとも思えない。「ラストマイル」は、そんな自分の曖昧な本音を見透かすような作品だった。
コメント