【漫画】『水は海に向かって流れる』親が不倫をした子供たちの「その後」の物語

漫画

[アフィリエイト広告を利用しています]

長い人類の歴史の中で、不倫を扱った作品はたくさんあります。 

自分がされたら絶対に許せないけど、他人の不倫話には興味がある。 

有名人が不倫をしたら、世間では大騒ぎ。

 みんな好きなのか嫌いなのか、 なんとも不思議なテーマです。

今回ご紹介するのは、2023年には実写映画化もされた漫画『水は海に向かって流れる』。

「親が不倫した子供たち」のその後の物語です。

登場人物

熊沢直達(くまざわ なおたつ)

高校入学を機に、通学のため歌川(母方の叔父)が住むシェアハウスに移り住む。素直で優しい性格。

 榊千紗(さかき ちさ)

26歳のOL。シェアハウスの同居人。あまり愛想が良くない。

高校生の時に母親が直達の父親と不倫し、いまだに心の傷として残っている。 

歌川茂道(うたがわ しげみち)

直達の母方の叔父。シェアハウスの同居人。脱サラした漫画家で、面倒見が良い性格。 

泉谷颯(いずみや はやて)

楓の兄。シェアハウスの同居人。職業は占い師。 

泉谷楓(いずみや かえで)

颯の妹。直達の高校の同級生。男子にモテる。

 成瀬賢三(なるせ けんぞう)

シェアハウスの同居人。職業は教授。千紗の父親と友人で、千紗のことを見守っている。  

あらすじ

高校進学を機に、叔父が住むシェアハウスに引っ越すことになった直達。

駅まで迎えに来てくれた同居人の千紗は、なぜか直達に対してそっけない態度をとる。

実は、直達の父親と千砂の母親は過去にW不倫の関係にあったのだった。

見どころ

親に不倫された子供たちの物語

この物語は「不倫をした親を持つ子供」の視点で描かれています。

しかも、親がW不倫をした千紗と直達が一つ屋根の下で住むことになるという、ミラクルな設定。

母親が不倫をした当時、高校生だった千紗は過去を「なかったこと」にして、今まで自分の気持ちに蓋をして生きてきました。

しかし同じ境遇の直達と出会い、交流するなかで、少しずつ過去の自分の気持ちと向き合う覚悟を決めます。

一方、当時は幼くて何も知らなかった直達。

直達は自分も辛くなるのを承知の上で、千紗の悲しみや怒りを半分引き受ける道を選びます。

この作品は無責任な大人たちが勝手に盛り上がった後の現実を、私たちに静かに突きつけています。

しかし、千紗や直達をただ単に親が不倫をした不幸な子供たちとして扱うのではなく、2人が苦しみながらも自分の人生を取り戻す過程を丁寧に描いているのです。

不倫がテーマなのに重すぎない

ヘビーなテーマを扱いつつも、ドロドロジメジメしていないのがこの作品の特徴です。

第一の理由は絵柄。

柔らかいタッチの絵柄は、読む人を選ばない魅力があります。

水彩画風の各巻の表紙も素敵です。

第二の理由は、各所に散りばめられたユーモアがほどよく緊張感を和らげてくれるから。

特にシェアハウスの住民たちの会話が面白い。

シリアスな場面でも、茂道や教授が絶妙なタイミングでガス抜きをしてくれます。

ギャグ漫画としても十分楽しめる作品なのです。

第三の理由は、この作品が救いの物語だから。

最初は無表情で直達の前に現れた千紗。

しかし、直達やシェアハウスの住民たちとの交流を通してどんどん感情表現が豊かになっていきます。

その過程を見ていると「きっと良い方向に向かっているんだな」と安心感を与えてくれます。

最終巻のラスト、曇り空から光が射すような希望に満ちた終わり方は必見です。

このひと言!

「直達くんは 意外と極悪だねぇ」

引用:田島列島『水は海に向かって流れる』2巻

このセリフは千紗が、長年音信不通だった母親に会いにいく道中で、直達に対して言ったことばです。

言葉以上に印象的なのは千紗の表情。

今まで笑顔の描写が少なかった千紗が、ゲラゲラと笑いながら直達に言い放つのです。

この出来事の後から、千紗の表情がどんどん豊かになっていきます。

千紗の中で止まっていた時間が動き始めるきっかけとなった、印象的な場面です。

感想

私がもし「好きな漫画を10作品教えて」と言われたら、おそらくこの作品は入ると思います。

「親に不倫された子供たちのその後」という重いテーマを扱っているのに、どんより暗い気持ちにならない。

むしろ心がじんわりとあたたかくなる不思議な作品なのです。

また、見方を少し変えてシンプルに恋愛漫画として楽しむのもまた良し。

不倫という恋愛の墓場みたいなテーマを扱っていながら、読み進めるうちに「人を好きになるっていいな」と逆説的な感情が湧き起こります。

私のお気に入りは直達に思いを寄せる同級生の楓。

美少女でさっぱりとした性格の楓は男子からモテモテ。

そんな楓が、直達の優しさに少しずつ心を惹かれていきます。

しかし、直達には千紗しかみえていない。

そこを正面突破で直達にアタックする楓が健気でかわいいのです。

誰を好きになるのも個人の自由。

千紗のことばかり考えて周りに鈍感な直達。

千紗に嫉妬する楓。

直達や楓に対して大人げない態度をとってしまう千紗。

みんな自分の気持ちに素直に従っているだけ。

だからこそ、みんなが納得する答えが出るわけではないし、悲しむ人が必ずでてくる。

そのような心のぶつかり合いこそが恋愛の醍醐味なのかもしれません。

普段取らないような行動を取ったり、自分でも気が付かなかった想いに気がついたり。

人は恋愛を通して、赤裸々な自分自身の姿を知り、成長していくのだと思います。

もしかしたら不倫は、そんな若い時の恋愛体験を引きずっている大人が陥ってしまう罠なのかもしれんません。

忙しいわりには日常生活に退屈している大人はたくさんいて、みんな心がカラカラに乾いてる。

乾いていたらうるおいを求めるのが動物の本能。

モテも非モテも、善人も悪人も、貞操観念が強い人もそうでない人も、本能には抗えない。

‥‥ある日、あなたは街の雑踏の中を歩いていたら、急に視界がひらけて美しい泉に出会う。

こんこんと湧き出る水はどこまでも透き通っていて、小魚たちが楽しそうに泳いでいる。

そこはまるで、あなただけに用意された小さな楽園。

現代社会という名の砂漠で見つけたオアシス。

そして、あなたはその泉に吸い寄せられるようにドボンと飛び込んでしまう。

本当はそれが二度と浮き上がることのできない底なし沼とは知らずに‥‥

つまり、不倫をするかしないかは運次第。

不倫をしていない人はたまたましていないだけで、もし諸々のタイミングががっちり合ってしまうと(当事者はそれを運命と呼ぶでしょう)、たちまち奈落の底へ一直線。

とても不倫するように見えない、温厚でおとなしい直達の父親をみているとそのように感じます。

なのでみなさん、くれぐれも気をつけましょう。

不倫は牡蠣みたいなものなのです。

あたる時はあたる。

知らんけど。

ではでは。

コメント